TRICERATOPSのライブでナンパをした話
- 2022/09/19
- 14:00
1番好きなアーティストを尋ねられたら真っ先に彼らの名前を挙げる。
TRICERATOPSと書いて「トライセラトップス」と読む。
ギターボーカルの和田唱さん、ベースの林幸治さん、ドラムの吉田佳史さんからなる唯一無二のスリーピースバンド。
名前を出すと「知らない」「懐かしい」のどちらか言葉が返ってくるのは、とっくの昔に慣れた。
売れてなかろうが知られてなかろうがTRICERATOPSが音楽を続けてくれるなら僕はそれでいい。
中学2年生の時にオールナイトニッポンで初めて曲を聴いて、ポカリスエットのタイアップ曲の「GOING TO THE MOON」が売れて、高校生からライブへ行くようになり、そのステージングに魅せられてハマり、そこから彼らのライブに足繁く通うようになった。
自慢だけれども、Twitterで和田さんに返信もらったことと、奥さまの上野樹里ちゃんからいいねを頂いたことがあります↓
今年2022年はデビュー25周年を迎えて久々に精力的な活動をしている。
7年ぶりにオリジナルアルバムをリリースし、それを引っ提げて全国ツアーを行った。
今回はその仙台公演でのお話。
2022/6/26(日)
仙台一番町のビルの上階にあるライブハウスのRensa。
何度か訪れたことはあるけれどもこんなに昂ったことはない。
待ちに待った6年ぶりの全国ツアー。
その間に募った期待に胸を躍らせる。
2ヶ月前のアラバキで観たスペシャルセッションも素晴らしかったが、今日はTRICERATOPSだけを満喫できる。
音楽に限らず趣味の合う女性とは仲良くなりやすいもの。
TRICERATOPSのライブの客層の9割は女性である。
ナンパを嗜む僕ならばTRICERATOPSのライブで入れ食い状態なのかと思いきや、実はそうではない。
2、30回は来ているが、ライブでナンパした事は2回しかなかった。
大好きなバンドのライブを楽しみにきているので、ナンパなんぞに気が回らないというのもある。
それよりも大きな理由として、単純にナンパのターゲットがほとんどいない。
主なファン層は40代以上。
年上女性が苦手なのではないけれども、僕よりも結構なお年を重ねられた女性揃いなのだ。
世間では「懐かしいバンド」扱いされているので、悲しいかな、新規の若いファンは少ない。
ビルのエレベーターで上がり、会場の扉を開けると、当然この日もお姉様ばかりが席を埋める。
ライブに出逢いを求めてはいないけれども、ああ、やっぱりな、と心の中で呟いた。
チケットを確認して自分の席に着く。
右の席には1人で来られたであろう小柄な女性。
髪型はシニヨン、ではなく金髪のショートカット。
最も好きな髪型だけれども、でもどうせかなりの年上なのだろう。
チラッとお顔が横目に入る。
ん?あれ?
「女性」というよりも「女の子」やん。
明らかに若い。
幸運だとかナンパだとか思うよりも「ああ、こんな事あるんやな」程度の気持ち。
間も無く会場の照明が暗くなり、ツアーのアルバムのタイトル曲でもある「Unite/Divide」がSEで登場曲として流れ、ステージ脇からメンバーが現れ、演奏が始まる。
僕の耳と、目と、心はステージと吸い込まれていった。
彼らは変わりなくライブバンドだった。
意識がステージから席へと戻る。
列ごとの規制退場であるアナウンスが流れる。
ふと右隣の子を思い出した。
ライブの余韻に浸っているようだ。
ナンパするのは今じゃあない。
ここでナンパするのは聖域を汚してようか感覚がある。
縦に並んで会場を出て、同じエレベーターに乗る。
うん、明るい所で見たら可愛い。
エレベーターが1階に着き、ビルを出た瞬間を狙ってナンパをする。
「金髪ショート、めっちゃ可愛いですね」
この髪型に対しての一言目はだいたいこの言葉。
無視されることはほとんど無い。
根拠としては乏しいが、心から思っている事だから、言葉に気持ちが乗っているからだろう。
「ライブで横の席にいててさ、気になってここで声かけちゃったわ」
国分町の人通りの無い路地を会話しながら並んで歩く。
最初は良いといえなかった反応も、段々と笑顔が溢れて、信頼がゼロから積み上げられていくのが判る。
20歳の大学生で、青森からこのライブ目的で来ていると言う。
東北にTRICERATOPSファンの20歳がいるってだけでも奇跡的なのに、そんな子が僕の好きな髪で、しかも隣の席だなんて。
もしもこの手が君を包むためにあるのならば、幸せな日々はもう訪れた。
「この後に予定ないならお茶でもしよか」
定禅寺通りを渡り、適当なチェーン店のカフェに入る。
あと30分で閉店らしい。
この場を切り上げる理由になるから都合が良い。
気候が良かったの屋外の席を取る。
テーブル挟んで豆乳ラテなんてロックンロールじゃないよな、なんて思うけど、僕はこの瞬間がたまらなく大好きなんだな。
「そういえば彼氏おるん?」
彼氏が有無がどうあれ僕がこの子を狙うことには変わりはないが、口説くまでの手札が替わってくる。
「いないです」
よし、それに越したことはない。
何か続きを言いたげな表情を見せたのが、少し気になった。
和田唱さんのご結婚2日目のライブが神々しかった話、アラバキでの奥田民代さんの泥酔問題を語りつつ、音楽や大学や地元の話を聞く。
「大学でええ人おらんの?」
「あの、彼氏はいないんですけど、彼女がいるんです」
日曜の夜、テーブル挟み全て教えてくれた。
動揺はしなかった。
経験と自信が、僕の余裕を保つと共に、次に知るべき情報をすぐに導いた。
「ロックやん。レズ?バイ?」
このどちらかによって、恋愛とセックスができるかどうかが大きく違ってくる。
「一応、バイかな」
ほな全然チャンスあるやん。
この時は単純にそう判断してしまった。
カフェが閉店の時間を迎える。
この後は仙台駅のコインロッカーまで荷物を取りに行き、ホテルにチェックインするそう。
「荷物重いやろし、道案内がてら付き合うよ」
国分町から仙台駅まで共に歩き出し、手を繋ぐ。
少し戸惑いを見せるも、拒むことなく受け入れてくれる。
歩幅を合わせた僕らの一歩は何よりでかい。
恋愛の話を掘り下げる。
バイセクシャルではあるけれども、彼氏がいたことは無い。
前に男友達に告白されたがLINEの内容が気持ち悪く恋愛対象にはならなかった。
そして処女。
どうやらかなりレズ寄りのバイのようだ。
レズだけれども、まだ男性がイケるのか自分自身でも判っていないので、可能性を含めてバイの名乗っているのだろうか。
彼女(パートナー)はストレートで、キスはするけれどもレズセックスは未経験。
性への興味そのものが、どうしたらいいのかよく解らないらしい。
駅で荷物を回収してアーケードのビジネスホテルへ。
あわよくばそのまま部屋に上がりたかったけど、ここのホテルはできない。
既に手は繋げている。
人として仲良くもなれた。
恋愛の話も引き出した。
もし僕が恋愛と性の対象としてアリならば、セックスはもう見えているまではきている。
しかしそのアリかナシなのか、アリにすることが出来るのかの見極めが今回に限っては難しい。
僕に残された手札は、カラダの距離で判断することしかできなさそう。
なので食事や飲み屋などのオープンな場所ではなく、人の目が無い場所で2人きりになり、勝負に出る段階。
「この後、カラオケでも行く?」
「いいですよ」
女の子はチェックインを済まして自分の部屋に向かう。
自販機の缶コーヒーを飲みながらロビーで待つ。
10分ほどで降りてきた。
ちょっとした支度とともに、覚悟をしてきてくれたら良いなと期待した。
近くのカラオケに入り、まだ見ぬ世界へ行くためのドアを開ける。
横隣に腰をかけて、歌ったのは最終的にお互い2曲ずつだったはず。
もちろん全てTRICERATOPS。
1曲目の選曲が記憶曖昧で、Raspberryか、FEVERか、GOING TO THE MOONか、いずれかのアップテンポのナンバー。
お互い1回ずつ歌い、ドリンクが届き、舞台は整った。
「好きな音楽も合うし、可愛いし、僕は○○のことを人としても女性としても、ええと思ってる」
後ろから抱き寄せる。
拒む気配はない。
全て忘れ、身を委ねて。
「男性とこういう形で関わることって、次いつになるか分からへんやん。
初めての男になりたい」
そっと手を頬に添えて、首を傾け、お互いの唇を近づける。
あれ、近づかない。
首に力が入って傾かない。
「やっぱり男は好きになれない。
好きじゃないとキスできない」
僕はまるで沈没しそうな船のよう。
2曲目にifを歌って泣きそうになる。
カラオケを出て、ホテルの前まで見送る。
この子は僕の上野樹里ちゃんではなかったのか。
この運命を呪ったこともあった。
うん、でも、ありがとう。
嘆いた日々に火が点いて遠くに飛べそうだ。
おわり