どこでもドアの先はクズだらけの世界。
彼女は僕を追って迷い込んでしまった。
夏の夜の真ん中、LINEがきた。
「久しぶり!
突然だけど、ちょっと電話できない?」
彼女とは4年前に横浜で出逢ってセックスした関係。
それから何度か遊んで、3年ほど会っていない。
「結婚したんだ」
僕はお祝いの言葉を返した。
10年もナンパをしていると、四角いベッドに僕と裸で収まった多くの女性は、スマホ画面の丸の中にドレス姿で収まることで幸せを教えてくれる。
それに比べてこんな遊びのオトコに直接報告してくれる律儀。
「あともう一つ、言わなきゃいけないことがあるんだ
実はブログもTwitterも知ってるんだよね」
僕は言葉を失った
とはならない。
やれやれ、またか。
岩クマーの正体が僕であると特定されることは多々ある。
きっと「コナン=新一」よりも知られている。
予想外の僕の反応に彼女はがっかりした。
彼女だけが知っている秘密であって欲しかったのだろう。
報告はまだ残っていた。
「それで私もTwitterやってたんだよね
『ナンパ師を好きになった女子垢』
みたいなので」
見たことがある。
女子垢に自ら近づくことはないし(かといって邪険にもしないが)みんながチェック入れてるナンパ界隈への興味が薄い僕でさえ知っているということは、有名なアカウントだったと察しがつく。
申し訳ないが「そんな女子垢がいるんや」程度の興味しか無かった。
その想いを寄せられたナンパ師が誰かだなんて考えようともしなかった。
ん
待てよ
ということは
それって僕なんか。
客観的に見ればすぐにイコールで結ばれるはずの図式も、主観だとこんなにも理解するのに時間差がかかるのか。
目に入らない距離を取っていた女子垢という存在から、まさかこんなにも直視されていたなんて。
「点と点が繋がって線になった」という表現があるが、片方の点がどこにあるのか見えていない状況だ。
何時間も彼女との思い出を語らった。
遊んだのは計5回。
急に無機質になって申し訳ないが箇条書きさせていただく。
①横浜でチャラ兄に指名されてナンパして居酒屋に連れ出し→カラオケでセックス
②翌日にデートで藤子・F・不二雄ミュージアム→ラブホでセックス
③大阪で3泊4日のUSJ&大阪城&クマ小屋セックス三昧
④横浜のお家でセックス
⑤みなとみらいデートして屋外セックス→多機能トイレでセックス
①と②しかブログ化していないのが不満らしい。
だってこれナンパブログなんだもん。
③〜⑤て普通のデートやん?
せっかくなのでそれらのエピソードを順番に紹介していく。
果てた後に彼女が放心状態になっていたのを思い出した。
岩クマーの正体に気付いたのは早く、②の直後。
「藤子・F・不二雄ミュージアム」でTwitter検索したら辿り着いた。
そのツイートがこちら↓
検索されるとも知らず、なんて能天気なツイートなのだろう。
のび太くんよりも頭がホンワカパッパだ。
ナンパ師だと知って最初は身の毛がよだったが、岩クマーのブログとツイートを読んで逆に好感を持ち、読破までしてくれた。
ナンパブロガーとしてこれ以上ない栄誉だ。
興味は岩クマーだけに留まらず異常なナンパの世界にも及んだ。
彼女はTwitterアカウントを開設した。
ハイエナのようにナンパ師が群がりDMが送られてきたそうだ。
ナンパというサバンナでは僕はライオンだったようだ。
③〜⑤では僕=岩クマーだと知っていることを隠して会っていてくれた。
隠し通した彼女が凄いのか、僕が鈍いのか。
③大阪で3泊4日のUSJ&大阪城&セックス三昧
この旅行を親友に相談したら本気で止められたらしい。
当然である。
ただセックスしたナンパ野郎ってだけでも不審なのに、旅ナンパブロガーとかふざけた野郎なら尚更。
良いお友達に恵まれている。
USJはハロウィンナイトの時期で、尋常じゃあないほど怖がってた。
初めて出逢った日に「すぐ男の人に騙される」と言っていたし、子どものような純真な心なんだろう。
3日目、本来はこの日で帰路に着く予定だったが、帰るのが面倒くさいと駄々をこね出して1日延期になった。
クマ小屋(自宅)で、起きる、セックス、寝る、を繰り返す大学生カップルのような1日を過ごした。
さすがにセックスだけで1日を終えるのは忍びなかったので、近所の大阪城公園をお散歩した。
④横浜のお家でセックス
横浜出張で、実家へ帰る前の1人暮らしのお家に泊めてくれた。
小さな簡易ベッドの上でセックスして、狭いのでくっついて寝た。
⑤みなとみらいで屋外セックス→多機能トイレでセックス
横浜駅で待ち合わせて夕食を共にした。
適当なお店に入るつもりが予約をしていてくれて、僕がまだ特別な存在なのだと理解した。
食事の席で、彼氏ができたこと、その彼氏が命に関わる病気であること、彼女も精神的に病んでいて体調を崩しやすいことを教えてくれた。
彼女は騙されてるのだと察したが、無責任な事も言えないので、彼氏の否定はしなかった。
降り注ぐ火の粉の盾には成れない。
夜行バスまでの時間が半端だったので、みなとみらいをお散歩した。
繋いだ手が、僕が彼氏より特別な存在なのだと教えてくれた。
公園で腰をかけ、唇を重ね、周りから見えないように愛撫した。
その場で挿入は目立つので、人目をはばかるためのお散歩が始まり、日産の川沿いで夜空を焦がした。
集中できず射精まで至れなかったので、地下街の多機能トイレに移って果てた。
あれが彼女との最後のセックスとなった。
「じゃあお気をつけて」とバスまで見送ってくれた。
その時の彼氏というのが一世を風靡した有名な恋愛工学生。
僕は知らないけど、彼は岩クマーを知っていた。
エリートを偽り多くの女性を騙して、挙げ句の果てに18歳未満に手を出して逮捕されたらしい。
そいつが今は何をしているのかを尋ねたら
「どっかで死んでんじゃない?」
と返ってきた。
その言葉を耳にして安心した。
洗脳は解けている。
「ナンパの世界ってクズしかいないから、あなたにはずっと優しい人のままでいて欲しい」
心に光が満ちた。
子供の頃、祖母や母親から「人には優しくしなさい」と言われていた。
どこの家庭でもそういうもんだと思っていた。
だから人を傷つける言動をする人が信じられなかった。
「優しいオトコはモテない」
「モテたいならクズになれ」
こんなゴミがTwitterでは宝石のように売られており胸糞が悪い。
真に受けて優しかった人がクズへと化してしまうのかと思うと居た堪れない。
確かに「優しいだけのオトコ」はモテない。
でも
「相手の想定を上回る優しさ」
「やさしさ以外の魅力」
どちらかを持ち合わせていればモテる。
だから無理して自分を捨ててまでクズにならないで欲しい。
せめて自分の信じてた優しさだけはどうにか覚えていて。
「僕は遊び人やから悪いオトコかもしれへん。
でも悪い人間ではないから。
人を騙したり裏切ったりはしない」
よく使う。
セックスのための嘘ではなく、確固たる信念である。
電話でセックスの話ばかりしていたので気持ちが高まった。
「会ったらたぶんヤっちゃうよね」
そりゃそうや。
めちゃくちゃ抱きたい。
なんだったらこの文章を書いている今だって抱きたい。
頭ん中バグっちゃいそう。
でも我慢するよ。
僕は優しいから。
彼女は岩クマーのせいで女子垢になってしまった。
本来、アカウントを「垢」と表すネットスラングが好きではない。
しかし皮肉にも彼女はクズばかりの世界で汚れてしまった女子垢だった。
そこから抜け出した彼女は今では無垢なドレスに身を包んでいた。
どこでもドアには、もう入らないでね。
君の手で鍵をかけて。
間違っても二度と開くことはないように。
あなたに逢えた。
それだけでよかった。
おわり